合成ハイドロキシアパタイトに代表される生体活性セラミックの実用化により、骨や歯などの生体支持機械臓器の人工器官としての人工歯根を生体に応用するためには、従来から学問的蓄積のあるodontologyの側面、移植の条件や感染の問題など医学的側面、系統発生学・比較形態学に関する生物学的側面、機能に対応する材質の構造力学など工学的側面やbiomechanics、セラミックスと生体との相互作用など生物化学的側面などを総合的に考慮する必要があります。 従来歯科インプラントは、学問的に多くの未解決部分を擁したまま臨床応用されてきました。高等動物の歯は、その使命にふさわしい形態をとるとされております。歯の形態と機能、組成結晶構造の相関や、哺乳動物に共通する歯の形態学的特徴、顎骨の持つ歯の形態形成因子、咀嚼器官の進化と歯力学機能体としての歯および顎骨の力学刺激に対するbiomechanicsやbiodynamicsなどは、人工歯根を合理的に研究する上で、検討を要する重要な事項と考えられます。 内臓頭蓋の消化器部分に相当する口腔の骨格を構成するのが、上下顎骨と歯であります。生体材による人工器官を用いて、失われた歯や顎骨を回復することにより咀嚼を中心とした口腔機能を維持し回復させる治療法は従来の歯の処置を中心とした口腔治療法に革命的変革をもたらす可能性があります。最近の材質面の進歩により、失われた歯や骨を人工器官を応用して合理的に回復する治療法は、現在漸く試行段階を脱した観があります。 今日、口腔の小手術を基礎として人工歯根や人工骨を活用し、欠損歯を回復するとともに歯をささえる顎骨部分から治療することにより咀嚼咬合機能を回復する、新しい口腔治療法の体系を検討すべき時期を迎えているように思われます。ここに研究会を結成し、この方向の基礎ならびに臨床医学的な観点から総合的に検討を加え、口腔をまとまった一器官としてとらえ機能の維持・回復を計る治療方式の体系を模索したいと存じます。 皆様のご理解とご賛同、ご協力の程をよろしくお願い申し上げます。
昭和63年11月
アパタイト療法・人工歯根療法研究会
世話人
石川 治
加藤 慎一
西原 克成